ADHDにみられるワーキングメモリーの課題


ADHDの子どもは不注意、多動・衝動性の症状が特徴的です。そのような症状とともに、ADHDのお子さんは作業記憶に課題をかかえることがよくみられます。


ワーキングメモリーとはバドレー(1986)によれば「理解、学習、推論など認知的課題の遂行中に情報を一時的に保持し操作するためのシステム」となっています。やや理解困難な文章です。記憶というと一般的には海馬から取り出して使用する、というイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、「理解、学習、推論など認知的課題の遂行中に情報を一時的に保持し操作するためのシステム」とあるように、取り出すという作業ではなく、使用している情報を一時、頭の片隅に置いておき、他の情報を処理するというシステムです。


例えば、鍋を火にかけて料理している時、セールスマンが来て話し込み始めます。しかし、その時でも鍋を火にかけているという認識を持ちながら、セールスマンと話をすることで、鍋を焦がさずにすみます。このように少し鍋のことを頭の隅にやり、他の事ができるというのがワーキングメモリーを用いているということです。これは学習面でも必要とされる記憶です。算数の文章題などで数式を一度にたくさん扱う場合など、多くの情報を記憶にとどめることができなくなります。ワーキングメモリーの低下により主に以下のことが困難になります。


イメージを思い浮かべること

ちょっと記憶にとどめながら、様々なことを整理することが出来ないため、とにかく目の前の事ばかり(聴覚も含む)に気をとられがちになり、しっかりとしたイメージ化が困難になります。聴覚情報での処理が特に困難になります。


長い文章の理解

長く複雑な文章であるとポイントは何かをつかめなくなります。更に、短文ごとの理解はできても、複数の情報を言われると理解が困難になります。


比較検討すること

絵の間違い探しなどが分かりやすい例です。右の絵のイメージを記憶しておき、そしてそれを保持したまた左の絵を見ていき比較します。右の絵を記憶しながら、左の絵をみて間違いを探すことに時間がかかったり、探すことをあきらめることもあります。また、左の絵の様々な情報に左右されて、右の絵のイメージが薄れていく事もあるでしょう。


優先順位をつけること

優先順位をつけるときは、どちらが大事かなど比較検討の力も必要となります。どの課題を先にすべきか、どこから片づけようかなどはADHD傾向の子どもにはよくあります。優先順位をつけることは、宿題を順序よくすること、仕事の予定を考える事、家事の順番など日常の広範囲にわたるスキルです。ここが苦手であると、全ての計画が上手くいかなかったり、活動がスムーズにできなくなります。



ワーキングメモリーの低下で以上のような困難が考えられるようです。このような困難を抱えている子ども(人)と考えて付き合ったり、支援していく視点は必要だと感じます。そして対応としては「気づきやすいようにする」「思い出しやすいようにする」「振り返るようにする」という単純なことが基本であると思います。成長するにつれて「思い出しやすいようにする」「振り返りやすいようにする」などの工夫をしていくことも必要です。

個人的には「振り返り」ということがとても大事になると思います。振り返ることでセルフコントロールをする力が育まれるようです。

なるさ 療育学習室

子育て相談、療育に関する相談室です。応用行動分析(ABA)という科学的視点から臨床心理士がお子さんの学習と成長を促します。

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